最終報告の概要

はじめに

公益法人制度改革から10年以上が経ち、時代に合わせた改革を進めていく必要があることから、公益法人制度・公益法人会計基準の改正が行われることとなりました。「新しい資本主義」が目指す民間による公益的活動の活性化に向けて公益法人制度が見直されます。これは、平成18年に現行制度が創設されてから初めての大がかりな改革となります。

令和5年6月2日、「新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議」における最終報告が雨宮孝子座長と高山昌茂座長代理から後藤茂之経済財政政策担当大臣へ手交されました。

この記事ではこの「最終報告」の概要を紹介します。

「公益充実資金(仮称)」の創設

現在の「特定費用準備資金」と「資産取得資金」を統合する形で、将来の公益目的事業の発展・拡充のためより柔軟な積立を行うことが可能な「公益充実資金(仮称)」が創設されます。

「公益充実資金(仮称)」は、横断的・大くくりな設定での設定が可能となることから、従来の特定費用準備資金とは異なり法人の実情や環境変化に応じた柔軟な資金管理が可能になります。

(法律、内閣府令、ガイドライン、会計基準の改正が想定されます)

収支相償における中期的な収支均衡の確保

公益法人は、公益目的事業の実施に要する適正な費用を償う額を超える収入を得てはならないという「収支相償」の要件を満たすように事業を行っています。

社会の変化に応じ、法人の経営判断で公益活動に資金を最大限効果的に活用できるようにする必要があるという課題から、公益目的事業において黒字が生じた場合には中期的に均衡を回復できれば良いということが明確化されます。ここでいう「中期的」は5年間で、過去の赤字も通算して判定を行います。

公益目的事業において黒字が出た場合には、過去から繰り越してきた赤字額と翌年度以降の赤字額と通算を行うことができるようになります。また、公益充実資金への積み立ても費用とみなすことできます。

(法律、内閣府令、ガイドラインの改正が想定されます)

指定正味財産の「指定」における使途制約範囲の緩和

「指定正味財産」に繰入れられる寄附金の使途について、最大で「法人の公益目的事業全体」とする指定も可能とします。使途制約の範囲が拡大することで、寄附者の意思確認が容易になります。

(ガイドライン、会計基準の改正が想定されます)

遊休財産(使途不特定財産)の適正管理

公益法人は、使途の定まっていない遊休財産を公益目的事業費1年相当分を超えて保有することができません(遊休財産の保有制限)。

しかし、安定した法人運営の継続や不測の事態に備えるために事業費1年分を超えた保有が必要な場合もあり得ます。また、上限額(事業費)の急激な変動に対応が困難という課題があります。この課題に対して、以下の見直しが行われることとなりました。

  • 事業費1年相当分を超えて保有する場合、その合理的な理由や超過額を将来の公益目的事業に使用する旨を明らかにし、法人が自ら継続的にフォローアップします。
  • 過去5年間の平均事業費等を基準に算定することになります。この見直しにより、上限額の予見可能性が向上します。

(法律、内閣府令、ガイドライン、会計基準の改正が想定されます)

変更認定申請の届出化

公益法人が事業内容等を変更する場合には、変更内容が公益認定基準に適合するか否か改めて審査を行います。「認定」事項が多いことから審査に時間がかかっています。社会変化に対応した事業改編、組織再編を迅速に行うことや法人負担軽減が必要という課題があります。

この課題に対して、以下の見直しが行われることとなりました。

  • 公益目的事業の事業再編・縮小、収益事業の追加など、「公益性に大きく影響せず」かつ「事後監督で是正しうる」変更は変更認定申請ではなく、変更届出で良いこととします。
  • 必要書類の合理化・明確化、審査期間を公表することで、公益認定や変更認定の審査期間の短縮を図ります。
  • 公益法人の合併手続等について、事業内容の変更を伴わない単純合併を届出化するなど、審査のメリハリ付け、手続マニュアル作成・周知を行います。

(法律、内閣府令、ガイドラインの改正が想定されます)

法人運営に関する情報開示

法人及び法人活動に対する国民の認知・理解の向上に向けて、法人運営に関する透明性の一層の向上を図ることとなりました。

  • 個人情報の保護等に配意しつつ、新たに情報を開示します(理事会での承認が必要な役員の利益相反取引、法人と密接な関係を有する特別の利益供与が禁じられている者との取引等、透明性の確保が必要な取引情報などが検討されています)。
  • 法人の財産目録等について、現在の「事務所における備置き」・「閲覧請求に対応」から、「ウェブサイト上で」・「広く公表する」努力義務を定め、広く公表する形へと転換を促します。
  • 行政庁が法人から提出を受けた財産目録等については公表します。

(法律、内閣府令の改正が想定されます)

財務情報の開示

公益法人は、収益事業等と公益目的事業の会計を区分経理することが求められていますが、収益事業等を実施していない法人などは、貸借対照表や損益計算書の内訳表を作成しないことが認めています。一方で、行政庁は、毎事業年度の定期提出書類において、「別表」の作成提出を求めていますが、法人にとって煩雑な作業となっており、記入誤りにもつながっています。こうした課題から、損益計算書・貸借対照表の内訳表の作成による区分経理を推進するとともに、これに伴う定期提出書類の簡素化等に取り組むこととなりました。

  • 全ての公益法人に対し、公益目的事業会計、収益事業等会計、法人会計の区分経理を求めます。
  • 現行の定期提出書類等における各別表については、できる限り損益計算書・貸借対照表の内訳表等で代替することで廃止又は記載事項を簡素化します(貸借対照表内訳表の作成が必須)
  • 公益目的取得財産残額については、その前提となる公益目的事業財産とともに概念・定義をわかりやすく再整理します。

(法律、内閣府令、内閣府令に基づく各種様式、会計基準の改正が想定されます)

法人情報の利活用の向上

公益法人に関する情報は、「公益法人 information」の各ページや各公益法人のホームページにそれぞれ存在しているため、一覧性や情報を活用する際の利便性に欠けています。そのため、内閣府は、公益法人の情報を一元的に閲覧・利用できるプラットフォームを整備して、都道府県とともに運用します。また、公益法人のガバナンスに関する積極的な取組やインパクト測定・マネジメント等の先進的な取組について、法人・経済界等と連携して、他の法人の取組の参考となる情報を発信し、その普及を図ります。

法人の自律的なガバナンスの充実

法人の多様性や実態に合わせた自律的なガバナンスを充実させるため、以下の措置を講ずることとなります。

  • 法人が自ら取り組んだ内部統制システムの構築等のガバナンス強化策を事業報告書等に記載します。
  • 外部理事や外部監事を導入して理事会の役割機能強化や監査機能の強化を図ります。
  • 理事と監事で、相互に配偶者、三親等以内の親族等は除外します。
  • 会計監査人を必置とする範囲を拡大します。現在は、「収益1000億円・費用損失1000億円・負債 50 億円以上」の法人は必置ですが、「収益 100 億円・費用損失 100 億円・負債 50 億円以上」へ見直すことを検討しています。
  • 評議員の選任及び解任をするための評議員選定委員会を設けて候補を選任すること等を推奨します。

(法律、政令、内閣府令の改正が想定されます)

行政による事後チェック

公益法人制度の信頼性を確保できるよう、行政庁が迅速に実効性の高い措置を講ずるため、下記の見直しをします。

  • 現行の定期的・網羅的な立入検査の実施を見直し、不適切事案の端緒をつかんだ法人に対して機動的・集中的に立入検査を実施します。
  • 行政庁における定期提出書類等の事後チェック強化の手法を確立します。
  • 監督・処分に当たっての基本的な考え方をあらかじめ策定・公表します。
  • 法人に対する行政庁の勧告・命令等の監督処分の実施状況やこれらを踏まえた法人の改善状況については、内閣府が一覧性をもって公表します。
  • 自律的な改善をした法人に対する監督措置の減免など自発的改善を促すための方策を検討します。

民間による公益的活動の活性化のための環境整備

上記の他、「新しい資本主義」が目指す民間による公益的活動の活性化に向けて、以下の取り組みが行われます。

  • 公益信託制度を公益認定制度に一元化し、公益認定法と共通の枠組みで公益信託の認可・監督を行う仕組みとすることで、民間による公益的活動に関する選択肢を多様化し、活性化するための環境を整備します。
  • 公益法人が行う資産運用において、株式保有等について公益認定法による制約をより具体的に明確化します。
  • 公益目的事業としての出資について、社会的課題解決に資する資金供給の一環として公益性を認定する際の考え方・基準を整理・明確化します。
  • 公益法人行政に関する全ての手続のデジタル完結によりユーザビリティ向上や定期提出書類作成の負担軽減等を図ります。
  • これまで以上に、法人・経済界・中間支援団体・士業団体等と行政庁との対等・協力関係におけるコミュニケーションの充実を図ります。
  • 内閣府は、インパクト測定・マネジメントについて、国内外における取組事例を調査し、具体的な測定の手法、測定に必要な体制、取組の動機などの実態を把握するとともに、法人の取組を後押しするための事例集を作成するなど、その普及・啓発に向け官民連携の取組を進めます。

(法律、内閣府令、ガイドライン、会計基準の改正が想定されます)

今後のスケジュール

今後のスケジュール(予定)は以下とおりです。

令和5年6月2日 有識者会議「最終報告」を経済財政政策担当大臣へ手交
令和5年夏 新しい資本主義実行計画・骨太方針予算要求・税制改正要望
令和6年 改正法案国会提出予定
令和7年度目途 新公益法人制度施行
令和8年度目途 新公益信託制度施行

参考・引用資料

  • 新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議 最終報告 報告(令和5年6月2日)
  • 新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議 最終報告 概要(令和5年6月2日)
  • 内閣府「公益認定等委員会だより」第115号(令和5年6月9日発行)